2020年6月1日 10:00
作品制作と人生
作品制作にはいろいろなプロセスがある。それを人生に例えれば、全くそのままが人生の縮図と言えるであろう。私が言うまでもないが人生には山あり谷あり、決していい時ばかりではない。だけれども何か物事を一つ仕上げたときには、解放感、充実感、安堵感がある。そしてその瞬間からこれでいいのかと不安感が出てくる。その繰り返しが人生である。よほど信念をもって人生にも作品制作にも立ち向かわなければいけないのに、これまた弱いのが人間である。私なんかはその典型的な例だと思っている。
作品制作は強気と弱気の葛藤である。自分で選んだのだから自分で責任を取らなくてはいけない。それが、その書に対する礼儀であろう。礼儀無くして書は書けぬ。それだけその瞬間は崇高なものであって欲しい。だが、先程述べたように人間は脆いものである。消極的と思われる方もいるだろうが、恐らく自問自答すれば解ることであろう。私自身は以前述べたことがあるが、製作プロセスに必ずそれが入る。そうするとしきりに反省しなければならないものがある。その時は必死になって払いのけるようにして、作品に打ち込む。そこで初めてその人の人柄が表れてくるだろう。大げさないい方かもしれぬが、それが書の制作の魅力でもあり、人生修行でもある。
最後に述べておきたいことがある。それは、他人の作品は非難しやすいが、そのような人は果たして自分の作品を非難することが出来るであろうか。人生観においても・・・。(泰斗 平成十二年五月より)