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是非に及ばず
是非に及ばず
いい言葉だと思った。これを「書」の上での例えとして、私の思いを述べてみる。ただ見当違いな場合もあるが、そこは許して貰いたい。
最近の出来事に、経文の失敗が続いてしまった時期があった。珍しいことである。普段なら、せいぜい一枚か二枚、四、五百字ほど書いたところで、文字の書き違いが生じる程度である。それも、筆が馴れて軽率な心で間違える。ところが今回は、四枚続けざまの失敗であった。さすがに自分の愚かさが、身に滲みて感じられた。
これを修行というならば、この歳では無意味にさえ思える。若いうちの修行はいくら積んでも将来があるが、晩年ともなれば、かえって厄介なものとなる。一瞬にして、これまで積み重ねてきたものが、すべて気泡のように消えてしまう感覚に陥る。それでも、歩みを止めるわけにはいかず、なお経文を書き続けなければならない。
折しも、新聞のコラムに織田信長の「是非に及ばず」の言葉が紹介されていた。ふと、我に返った気がした。「善悪を論じる余地もなく、避けられない状況をそのまま受け入れること」との解説である。
とはいえ、現実には、改めて筆を取ることが怖くなった。また失敗するのではないか、その不安が先に立つのである。今の状況下では、よほど覚悟が必要であろう。これだけ長年、経文を語るように書き続けてきたにもかかわらず、このような状態に陥るとは、精神力、集中力、忍耐といったものすら無用に感じられてしまう。それでもなお、「是非に及ばず」と受け止めるより他に、道はないのであろうか。
(機関誌 泰斗令和八年二月号 巻頭言より)
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1月10日
恭頌新禧
新春のお慶びを申し上げます。
やはり、新年の言葉には期するものがあります。毎年同じようなフレーズであっても、その都度、今年は・・・。誰しもが思う筈です。
さて、私にとっては、と申せば、より一層「書」に迷うことなく邁進する事ではないでしょうか。今の私には、「カウントダウン」が始まっていると思っております。
泰書會創立から、今年は三十年の節目となり、泰書展も第三十回を迎える事になります。ここで、過去を振り返る事なく、未来に向かって話を進めてまいります。要は三十年の努力が、これから迎える先の糧となるのか、が一番であります。薫習(仏語。香が物にその香りを移して、いつまでも残るように、みずからの行為が、心に習慣となって残ること。)と言う言葉を泰書展の受賞で使わさせて頂いております。これから先、三十年の積み重ねが活かされるかではないでしょうか。
私自身は、先頭に立っている以上、その姿勢を示して行かなければなりません。その中に「大いなる挑戦」と言う言葉を刻み込んでおります。大袈裟に言えば、何かを犠牲にして「書」に対峙する事でもあります。如何に「書」を今まで以上に書いて行くかと頑な心構えをする積もりです。
本来であれば、そんな肩肘をはって、やらなくてもと思われがちですが、それは真逆と思っております。今だからこそ、出来る事を最大限にしなくてはなりません。時々「人間の限界は・・・」と考える事があります。実は、私にとって、まだその限界を感じた事が無いのです。限界を超える事は至難の業でしょう。然し、敢えて向かわなければならない事情があるのです。それが、冒頭のカウントダウンなのです。最後は後悔するのではと言う不安からの言葉でもあります。
年頭早々ではありますが、希望を持って「大いなる挑戦」に向かって参ります。皆様は各々の人生を大切に歩んで下さい。人の真似する事無く、好きな自分を見出して貰いたいのです。
(機関誌 泰斗令和六年一月号 巻頭言より)
